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資格制度の現状
ウィキペディアHPより
現在、医師以外の者が鍼を行う為には「はり師」、灸を行うには「きゆう師」の国家資格が必要である(*注)。鍼灸師養成施設(鍼灸専門学校・視覚特別支援学校理療科・大学鍼灸科)で単位を取得することで、この二種類の免許を受験できる。一部の古参の私立専門学校には、「本科」として「はり師」「きゆう師」に加えて「あんま、マッサージ、指圧師」の免許も加えた三種類の免許を受験できる課程が置かれているが、定員数が少なく現在でも10倍程度の入学倍率がある。 多くの私立専門学校卒業者および全ての私立大学鍼灸科卒業者は、はり師、きゆう師二種のみを取得できる。
「あんま、マッサージ、指圧師」免許については、この取得を専門とする課程(あんま、マッサージ、指圧専門学校および視覚特別支援学校保健理療科)が存在する。視覚特別支援学校保健理療科は一般的な盲学校課程である。つまり、ほとんどの視覚障害者は「あんま、マッサージ、指圧師」免許を取得する。しかしながら、青眼者が「あんま、マッサージ、指圧師」免許を取得するためには、前掲の古参の専門学校「本科」に入学するか、「あんま、マッサージ、指圧専門学校」に入学しなければならない為、青眼者の「はり師・きゆう師・あんま、マッサージ、指圧師」三種免許者(三療師)は非常に少ない。
「あはき法」を厳密に適用する場合、はり師、きゆう師のみの資格でマッサージ業を行うことは、無免許整体師や柔道整復師がマッサージを行うのと同様の違法行為となる。しかしながら、鍼灸施術には施術領野に対するあんま的手技が必須のものでもあり、実際には「はり師」「きゆう師」のみの免許者があんま的手技を行っているのが現実で、現状を反映した法制度の改善が求められている。
また鍼灸免許者は、歴史的に戦後のある時期まではほとんどが視覚障害者(盲学校出身者)であったが、現在では全国的な視覚障害者の減少(盲学校入学者の激減)と相まって、青眼者(非視覚障害者)の免許者が圧倒的に増加している。 鍼灸師養成施設についても、近年の規制緩和以前までは、鍼灸按摩養成機関の新規認可は非常に難しく、国家試験受験者数が適正に制限されていたが、規制緩和以後、インフラに金がかからない鍼灸学校の「無秩序な」新設が相次ぎ、年度毎の卒業者数は以前(平成10年)の数倍に膨れ上がっており、需給関係は完全に崩壊している。
このなかで、あん摩マッサージ指圧師(あまし師)の養成学校のみは、視覚障害者職域保護の為として新設校の認可が為されず、辛うじて適正な免許者の数が保たれているが、前述の様に「あんま、マッサージ、指圧師」の免許自体が有名無実化しており、鍼灸按摩の資格者数の適正化には、現在全く目処が立っていない。
(*注) 医師は業務として鍼灸を行うことが可能であるが、現在、医学部教育において鍼灸の科目を置く大学はほとんど無く、鍼灸臨床を行うために必要なトレーニングの内容や時間数など法制度の整備もなされていないため、実際には鍼灸を行う医師数は非常に限られる。また、技術の習得についても、個々の医師の裁量に任されている状態である。
また、鍼灸診療の健康保険適用は、「療養費」(鍼灸院など、保険医療機関以外の医療機関で医療行為を受けた場合の一時的措置)として認められるものであり、点数化されていない。このため、保健医療機関内では通常の「療養」としての保健請求はできず、多くのケースで実費診療となる。このため、混合診療との批判に当たらないよう、対応が必要である。
鍼灸の保険適用についての問題点 [編集]
鍼灸治療は保険点数化された「療養」とは規定されていないため、健康保険を適用する場合、「療養費」として請求する。「療養費」とは、保険医療機関における保険点数化された「療養」以外の治療を保険医療機関以外の医療施設(鍼灸院、接骨院など)で受けた場合、その治療費を保険者に請求できる制度であり、患者本人の負担率は保険医療機関において、通常の療養を受給した場合と同様である。しかしながら、その支給については、点数化された「療養」の支給は保険者の義務であるが、「療養費」の支払いは保険者の義務ではなく、それを支給するか否かは各保険者の裁量に任される。 療養費の請求は、本来は治療費をいったん全額負担した患者本人が保険者に請求を行なう制度(償還払い)であるが、患者本人に非常に煩雑な手続きを強いることになるため、慣例として「受領委任払い」という支払い形式が取られている。これは治療院などが患者の療養費請求を代行できる制度で、「鍼灸院」、「整骨院(接骨院)」が主にこれを行なっている。
この受領委任払いについて、「鍼灸院」における療養費請求には、「慣例」として医師による同意書の添付が定着している。これは法令で定められた規定ではないが、保険者によっては、「鍼灸院」という保険医療機関以外の医療施設からの請求に対して不信感を示す場合があるため、、現在では医師による「同意書」の添付が慣例化している。これは治療の対価を支払う保険者が、鍼灸マッサージ師の請求内容(診断技術)に対して信頼を置いていないためになされてきた慣例で、鍼灸社団が保険者との信頼醸成に失敗してきた歴史をそのまま反映するものである。本来鍼灸マッサージ師は、職掌として患者の臨床症状に対する判断は認められており、受領委任払いに関する請求に医師による同意書を添付する法的な根拠はない。
しかし、この問題が複雑であるのは、法制度上も、社会的な通念やイメージとしても「鍼灸院」とほぼ同様の存在である「接骨院(柔道整復業)」では、「医師の同意書不要」での療養費受領委任払いが慣例化している点である。これは、整形外科の絶対数が少なかった終戦後のある時期まで、接骨院(整骨院)が、整形外科の代替として実際に一部の急性外傷(四肢の骨折・打撲・捻挫など)に対する医療を担っていた状況があったため、この現実を加味して、接骨院における急性外傷に対する受領委任払いを認めるよう、厚生省が関連する省令や通達などで保険者に周知して来た事が基盤となっている。
急性外傷に対応するための整形外科の代替として、整骨院の保険治療に保険医療機関と同様の利便性を持たせて患者に提供したことは、当時の医療を取り巻く状況をよく反映した施策であった。しかしながら、現在では保健医療機関(病院・医院・クリニック)自体が乱立しており、急性外傷の患者がわざわざ「接骨院」に来るケースは、ほとんど考えられない。このため、接骨院が行っている療養費請求の内容については整合性が疑われる場面が多々あり、見直しが必要ではないかとの意見も多くある。しかし現状では、「接骨院」における受領委任払いによる療養費請求が「医師の同意書不要」である事は既得権として守られており、しかもほとんどの請求が通る(柔道整復療養費;約4,000億円/年)。
つまり、いわば親戚業種である「接骨院」が、整合性を疑われる形で強引に療養費活用をしているため、これと同一視される「鍼灸院」の療養費活用や新たな働きかけ(同意書撤廃など)が、様々な場面で不当に抑制されるという皮肉な現状がある(鍼灸療養費;約200億円/年)。
表向き、厚生労働省が鍼灸保険の同意書撤廃を「困難」としている理由は、以下である。
1.鍼灸の対象疾患は外傷性の疾患ではなく発生原因が不明確 2.鍼灸治療は“治療と疲労回復等”との境界が明確でない 3.鍼灸治療は施術の手段・方式が明確でない 4.鍼灸治療は成績判定基準が明確でなく客観的な治療効果の判定が困難
しかしながら、鍼灸療養費の支給基準が数十年に亘り、法律ではなくその時々のこの様な通達により決定されていること自体が、支給に対する整合性を失わせる原因ともなっている。[3][4]、早期の法律化が待たれる。
これらの問題の根底にある最大の問題として指摘されているのは、日本の鍼灸医療が正規の医療として「保険点数化されていない事」である。医院や病院の場合、「保険医療機関」の指定を受けて初めて保険請求が可能になる。これによって厚労省のコントロールや指導が効くわけであるが、鍼灸院・接骨院の場合、「療養費」の取り扱いにはこのような国の指定が必要ない(保険医療機関の指定が「無い」事こそが、療養費申請出来る資格である)。このため、「療養費」という制度は、構造的に厚労省がなんら実効性のある指導が行えない制度で、一般国民にとっても、あまり拡大させたくない制度といえる。接骨院による整合性の不確かな療養費請求が年間4,000億にふくれ上っても、厚労省は有効な改善策を打てずにいる(*接骨院における柔道整復業に対する療養費請求の問題点については「柔道整復師」の項参照)。
この様に多くの問題点を孕みながらも、「鍼灸」に関する療養費については、実に半世紀の間、各個鍼灸院の「良識」によって適正な運用がなされてきたとの評価がある。しかしながら一方で、トラブルが無かったのは、鍼灸療養費の規模が小さかった事が主要因であるとの指摘も見逃せない。近年の世界的な鍼灸評価の上昇に伴って、今後鍼灸の臨床活用が増大することが予測されており、実情を反映した鍼灸の保険適用に関する法整備(鍼灸の保険点数化と鍼灸院に対する保険医療機関としての認定)が急務と言われている。
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